人間観察が好きだった。口癖は「大学に通って心理学を学びたい」。心理が行動にどう影響するのか、いつも念頭に置いていた。選手を観察し、ピンチの時にどういう考え方をするのか。把握した上で采配を出さなければならないと。同時に「指示待ち族ではだめだ」とも言っていた。
担当記者にもいろんな角度から質問をしては、自分の考察と照らし合わせていた。一般紙の担当記者の出身大学を聞いて「○○大学か。優秀だな。だから、お前は俺のぼやきをいつも黙って聞いているんだな。腹の中で『またばかなことを言って』と、俺を軽蔑してるんだろ?」と言い、心の中を見透かす視線を投げては、場を和ませた。
心理面への探求心は聞いていておもしろかった。心理から行動を予測する、もしくは行動を見てその心中を推し量る。野球のプレーがベースだが、野村さんはあらゆるところに目が届き、心理を読む。ユマキャンプではその慧眼(けいがん)に度肝を抜かれた。
野村さんの話は長い。1日に5時間を超えた。ゆえに、飽きるからサボる。10人ほどの記者が野村さんを囲む所から、200メートルほど離れて鉄棒があった。巨人を精力的に報道する他社先輩と息抜き。その先輩は30歳過ぎても蹴上がりをスパッと決める。記者にもアドバイスしてくれた。
練習は熱を帯びる。できそうで、できない。あと1歩で体が起こせない。惜しい。キャンプ中には1度は成功するかなと思いつつ、握力もなくなり、囲み取材の斜め後ろからさりげな~く紛れ込む。少したった時、野村さんがこちらを指さした。「お前の蹴上がりは、最後のところであきらめているからできないんだ」。ズバリと言われた。その通りだった。
これは一体なんの叱責(しっせき)? 他の記者はポカンとしている。一方、深く納得し、心の底から野村さんの眼力恐るべしと思い知った記者だけが「すいません。あきらめずにやります」と、これまた謎の決意表明をしたことがあった。
日本を遠く離れた解放感からか、野村さんはユマキャンプではすさまじいゴシップネタを聞かせてくれた。心配になって「担当記者以外の人もいるんですから大丈夫ですか」とやんわり注意すると「自分で自分がイヤになる。こんなネタをお前たちにしゃべって。自分の性格が本当に嫌だ」と、かなりまじめな顔をした。「だがな、やめられん。楽しい。救いようがない」。
人の心理を深く読み、知見と合わせてプレーを鋭く解説。その一方で、延々と続けるうわさ話にポーズでは嫌気を見せつつ「やめられない。楽しい」と、ド直球の本音で、全ての倫理観を軽く飛び越えてしまう。ロジックノムさんと、ゴシップ大好きノムさん。その振れ幅が、野村さんの人としての面白み、味わいを際立たせていた。【井上真】






