宇野昌磨の手札にジョーカーはあるのか- 担当記者・松本航が読み解いた
フィギュアスケートの全日本選手権(12月21~24日、長野市ビッグハット)男子で宇野昌磨(26=トヨタ自動車)が、2年連続6度目の優勝を飾りました。
6回の頂点は佐藤信夫(10回)に次ぎ、本田武史と羽生結弦に並ぶ歴代2位。好演技が続いたフリーの最終滑走でショートプログラム(SP)のリードを守り、3連覇が懸かる世界選手権(2024年3月、カナダ・モントリオール)への切符を手にしました。
2023年を締めくくる全日本選手権を、担当記者は2016年から8年連続で現場取材。取材のやりとりで感じたことを「Ice Story(アイストーリー)」にまとめました。
フィギュア
宇野昌磨の手札には何がある-
長野から自宅のある東京へと戻る新幹線。「メダリスト・オン・アイス」の原稿を書き終え、ぼんやりと真っ暗な外を眺め始めた。
クリスマスの夜。大宮が近づいたあたりで、ようやく、自分の中でしっくりとくる例えが頭に浮かんだ。
取材対象者と記者-。宇野の取材では、勝手に思考を想像して“駆け引き”をしている気になる。今季は従来以上にそうといえた。
ふと思い浮かんだのは、トランプだった。
「手札には何があるんだろう?」と相手の心理を読む、あのヒリヒリ感だ。
相手を、おこがましくも宇野と仮定する。
公式練習、SP、フリー…。取材という形で向き合いながら、互いの手札を減らしていく。そうして大会の結果が出た時、宇野の手元にあるカードは何か-。
話は1カ月ほど前にさかのぼる。今季初戦となったグランプリ(GP)シリーズ中国杯を、現地の重慶で取材する機会に恵まれた。
公式練習で彼に尋ねた。
――鍵山(優真)選手がフランス杯で今季の男子シングルについて「ネーサン(・チェン)がたくさんいるみたいな状態」と話していました。宇野選手は今大会にも出場するアダム(・シャオイムファ)選手を、どういう風に見ていますか
この時の答えは、ある程度、想像した通りだった。
「去年から言っていることなんですが(シャオイムファの)結果が出たのは、やっぱりジャンプがより安定したからこそ、結果が出たと思います。僕は彼の日々の練習を見ているわけではないので、結果がどうというより、単純にスケーターとして、パフォーマンスする人として、好きなスケーターと思っていました」
手持ちのカードが、心地よいテンポではけてゆく。
(「『僕の方が早く知っていましたよ』っていう気持ちです」。この言葉が続けて出た時は、さらに宇野の手札が減った気がした)
中国杯を通して、取材の興味は1点に向いていた。
表現者としての自分を追求する道へ、かじを切った王者。その宇野が再び結果にこだわるのか、否か-。
競技者として結果にこだわる志(カード)を、分かりやすく「ジョーカー」とする(ジョーカーを持っていれば「勝ち」「負け」といった深い意味はない)。
今季最初の競技会を終えて、「ジョーカー」を携えるのかどうか気になった。
中国杯は2位で、シャオイムファと18・40点差。フリーの演技直後に聞いた。
――競技会では、得点や結果が出ると思うのですが、今の気持ちはいかがですか
「どうですかねぇ…。本当は『悔しい』と思った方が競技者らしいですし、試合前もですけれど、全然緊張しなかったですし『僕の気持ちがもうそこにない』というところは、事実としてあるかなと思いますね」
最後の1枚をサッと差し出し、彼は1度も「ジョーカー」を手にすることなく“あがった”感覚に近かった。
それから宇野はGP2戦目のNHK杯、GPファイナルと2大会を転戦した。
私は現地で取材する同僚記者を、遠隔でサポートする形だった。送られてくるコメントを見て、少しずつ宇野の心境が変わっていっていることは感じ取れた。
それ以上は深く考えず、あえて頭の中で、中国杯での取材のやりとりを忘れないようにしようと思った。
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松本航Wataru Matsumoto
大学までラグビー部に所属。2013年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社。
プロ野球の阪神を2シーズン担当し、2015年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当。
2018年平昌冬季五輪(フィギュアスケートとショートトラック)、19年ラグビーW杯日本大会、21年東京五輪(マラソンなど札幌開催競技)を取材。
21年11月に東京本社へ異動し、フィギュアスケート、ラグビー、卓球、水泳などを担当。22年北京冬季五輪(フィギュアスケートやショートトラック)、23年ラグビーW杯フランス大会を取材。
身長は185センチ、体重は大学時代に届かなかった〝100キロの壁〟を突破。体形は激変したが、体脂肪率は計らないスタンス。
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