3月13日は、野党にとっては歓迎できない「13日の金曜日」になることは既定路線ではあったが、高市早苗首相が衆院解散総選挙に踏み切り、1カ月以上審議が遅れたのに、3月末の年度内までに2026年度予算案を成立させたい、という「前代未聞の帳尻合わせ」(野党関係者)との声もあった首相の強い意向を受け、言われるがままに採決強行に及んだ与党。過去に与党が強行採決に踏み切るような時、多くの野党議員が委員長席に詰め寄ったり、「外野」で声高に反対を叫ぶケースもあったが、採決が行われた衆院予算委員会は委員長も含めて50人のうち、与党で40人近い。「高市1強」の環境下では、野党が何を言ってもまったく響かなかった。
審議時間の大幅短縮、予算を省庁別に分けて審議する分科会の37年ぶりの非開催。これまでの予算案審議からの景色激変について、高市首相が、根回しが基本になる国会対策の現場の経験がほぼなく、「国対のお作法」に染まっていないことも、今回のような「審議すっ飛ばし」(野党関係者)であっても、違和感を感じなかったのではないか、との指摘も耳にした。
2月の衆院選で自民党で315議席を獲得し、「数の力」を背景にイケイケの政権運営を進めてきた高市首相。ただここにきて、つまずき、ほころびも見え始めてきた。大きかったのは2月28日の米国とイスラエルによるイラン攻撃開始を把握しながら、石川県知事選に再選を目指して立候補した旧知の馳浩氏の応援で金沢に入った判断だった。一般的に、2期目を目指す現職は強いとされるが、馳氏は大接戦が伝えられていた。与党関係者は「『単なる応援』が目的なら、高市首相は行かなかったでしょう。しかし激戦で、馳氏はどうしても高市首相の応援が欲しかった。また、知事選とはいえ高市首相にとって衆院選後、初の選挙応援。自身の人気のひと押しで、何とかなればと考えたのではないか」と指摘。一方で「国際情勢が緊迫する有事に、旧知の知事の選挙応援に出向くことを、国民はどう見るか。センスの問題だ」とも述べた。勝っていればあらためて「高市人気」が証明されただろうが、馳氏は山野之義氏に6000あまりの差で敗北。「選挙に強い」首相の売りも、つぶす結果となってしまった。
馳氏の知事選落選が確定した9日になると、「閣僚の女性スキャンダルが出るらしい」という情報が、永田町をかけめぐった。結果、松本洋平文科相の過去の不倫で、松本氏は報じた「週刊文春」の発売日に会見し、事実関係を認めて謝罪した。かつて高市首相について「大嫌い」という趣旨を語っていたとも報じられ、記者の質問が相次ぎ釈明に追われる事態となった。
リスクをはらむ選挙応援で候補者が敗れ、閣内からは女性スキャンダル…。普通の政権ならダメージが重なる出来事だが、「数の力」の上に立つ高市首相には、今のところ大きな打撃になっている状況には見えない。ただ、これからイラン情勢の中で、トランプ大統領との日米首脳会談でどんなことを迫られるのか、自民党が少数与党で臨む参議院で16日から始まる予算案審議で、26年度予算案を本当に年度内に成立させられるのかなど、ハードルはこれまでよりも格段に高くなっていく。イラン情勢で物価高はさらに深刻になりかねず、ハードルの乗り越え方次第で高市首相の今後の評価も決まってくることになる。
そんな高市首相について、かつて田中角栄氏に仕え、与野党の立場から政治家として多くの総理大臣をみてきた小沢一郎前衆院議員(83)に、どう見ているか聴く機会があった。小沢氏は、「政治家だから、右でも左でも自分の考えを持って発言することはいいこと」としながらも、「総理大臣は同時に、国民の生活と生命、日本国の行く末を担っている。自分がこうだからといって、その都度その都度、勝手なことを言っていてはだめだ」と指摘。「(安倍)晋三くんのまねをして一生懸命やっているんだろうが、安倍晋三くんは、『これはまずい』となると(考えを)変えることがあった。この『変わり身』を心得ていた。ずるいといえばずるいが、彼女にはそこがない」と述べ、「世論を二分してでも(自分の思いを実現したい)、という心意気はいいけれど、日本の行く末、国民の生活を考えた上で行動しないといけない。総理なんだから。安倍くんをまねするなら、ずるさもまねないといけない。生真面目というか、一本気なのかは分からないが、一国のリーダーとしては危うい」。日本政界の表も裏も見てきた重鎮の言葉だった。
今のところは「怖いものなし」(自民党議員)ともいわれる高市首相。ただ、一寸先は闇といわれる政界は、イラン問題で予測不可能になってきた国際情勢に巻き込まれる形で、「高市1強」であっても先行きが見通せない空気が漂い始めている。【中山知子】






