柔道男子60キロ級で2021年東京五輪(オリンピック)金メダルの高藤直寿(32=パーク24)が9日、都内で会見を開き、現役引退を発表した。酸いも甘いを味わった四半世紀の柔道人生を振り返った。
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高藤は会見で「勝てない自分に価値はない」と言った。勝利への渇望に直面したのは2年前。ロス五輪を目指すと決め、復帰戦にした24年11月の講道館杯2日前だった。稽古取材中、1メートル先で高藤が「痛!?」と悲鳴を上げ、うずくまった。
左膝内側靱帯(じんたい)断裂。ただ、明らかな重症に病院で検査を促す周囲をよそに、本人は道着を脱ぐと、左足を引きずり、体重計に乗った。「試合がしたいんだよ!」と叫んだ。求める勝利は畳の上にしかなかった。以降、競技人生初の大けがの後遺症は大きかった。「気持ちだけではどうしょうもなかった」と白星が遠かった。
「柔道家としては失格」と引退を決意したが、10年以上取材させてもらった身として、この敗北の日々こそ、指導者として生かしてほしい。「けがをした人、試合に出られない気持ちをあまり知らずに過ごしてきた。すごく自分の人生の中で経験をできたのはプラスになるかな」。本人の予感が現実となってほしい。
若い頃は「やんちゃ」と形容された。その意味を「枠にとらわれない」と解釈するなら、最後まで変わらなかった。eスポーツの大使や、オリジナルの柔道着ブランドも作った。
引退後もやんちゃな人生を送るのかと予想してたが、違った。「全ては柔道のためでした。選んでやってきて、自分には改めて柔道しかないなと思っています。今後もずっと畳の上で生きていきたい」。はみ出なければ、「畳」の良さは分からない。勝利だけでは分からない、負けの意味があるのも同じだろう。
「勝てない」高藤でも、ずっと「価値」を感じる柔道家だった。【元柔道担当=阿部健吾】


