ボクシングWBC世界バンタム級2位の那須川天心(27=帝拳)が自ら編集長を務める26年最初の「天心新聞」を日刊スポーツの読者にお届けします。昨年11月に世界初挑戦し、井上拓真(30=大橋)との同級王座決定戦に敗れ、プロキャリア初の黒星を味わいました。その悔しさを胸に4月11日に控える同級1位の元2階級制覇王者フアンフランシスコ・エストラダ(35=メキシコ)との挑戦者決定戦に向かう那須川が今の心境を率直に明かしました。第6回のテーマは「人間の最後のパーツ」です。
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2026年も、3月になりましたね。1発目の試合がだんだんと近づいてきました。昨年11月の井上拓真選手との試合から数カ月がたったけど、僕の中で悔しさはずっーとある。悔しさとともに人生を送っている。
ボクシングには勝敗があるから、負けるのも仕事と言うか。絶対に負けたくはないけど…。まあ吹っ切れることはない。その悔しさとともに人生を送ってる。僕は体と感情は別だと思っていて。悲しい感情の僕の横には「楽しい天心君」がイメージで登場していて。その自分とずっと会話している感じ。それが自問自答というのかな。
試合後の会見が話題になっていたそうで。メディアの質問にすべて対応したから長い時間になって動画を見て驚いた人もいると思う。1人の時はめっちゃ悔しくて控室で泣いたりした。でも、いろいろ整理した結果、あの形になっちゃいましたね。
今は人の失敗を笑う時代。負けた方が注目はされる。絶対にいろいろな人が動画を見るだろうし、自分が吐いた言葉で世界がつくられる。そういう人に向けて思ったことを素直に言っただけかな。
「潔かった」とも言われた。それは、ずっと言ってきたけど負ける覚悟はあったから。その覚悟がなかったのがメイウェザー戦だった。退場の時に泣いたし、人前に出られなかった。エキシビションとはいえ、自分は1回、あの状況を知っていて。泣いてすみませんでしたっていうのは今までの自分を否定するようなことで自分を否定したくない。自信を持ってやった。それが態度に出たと思う。
「生きる意味」を問われて即答できる? すぐに言えないはず。生きる意味はつくるものだと思う。
今回、僕は悔しい気持ちを得た。もうこの感情になりたくない。その感情になった時点で、生きる意味が決まる。その積み重ねかなと。これをやったらいいんだと心底思うと生きる意味をつくることができる。今回の経験を反面教師にして、生きる意味が持てた。
人間の最後のパーツを手に入れた感覚かな。
何回も試合動画を見ましたよ。3ラウンド以降の自己分析はめっちゃできました。けど言わないし、言わなくていいかなと。ああならないように練習を今、やっている。
12月、1月と3週間ずつ、矢田(修)先生のところでBCトレーニングを積んで。いつもは1人だけど初めて山本君(ドジャース山本由伸投手)とかみんなとやって。やる内容も全然、変わってボールを投げたりした。身体操作で言えばすべて一緒のことで、すべてにつながることをやった感覚でした。
集団でやることで「間」が変わる。狭いスペースの中、1人ずつ交代でトレーニングするんだけど、空気を読んだりつくったり。自分の「間」をつくるっていうことが非常に大事になる。
人と呼吸を合わせないといけない。同じ目標、目的に向かって志が高い場所でやる。お互い気を使ったり使わなかったり。みんなでやるけど個人個人の「間」をつくることもテーマというか。今後の自分の中で一番やらなくてはいけないことだと思った。最初は12月に2週間の予定だったけど、自分の中で確実な変化が生まれたので(帝拳ジム本田明彦)会長にお願いして長くしてもらいましたね。
ボクシングだけ、格闘技だけを見てきた人には「何をやっているの?」と思うかもしれない。でも自分は、そういうところで勝負していないというか。これまで2カ月もジムワークから離れることもなかった。今までボクシングを習おう、「型」を学ぼうという姿勢が強かった。この3年間で「ボクシングとは?」を追求してきたけど、最終的に、そこって限界があった。
ボクシングに歴史はあるし形はあるけど…型はない。型と形は違うと思ってる。この3年間で、そういうことをやらなくていいんだと思えた。例えばジャブはこうやるんだよと教えてくれるけど、あくまで参考にすればいい。極論だけどボクシングに「教科書」はないとたどり着きましたね。
今後はアニメの「NARUTO」スタイルで行こうと思う。ナルトは生まれた時から両親がいないから里の人たちに育てられた。自分もみんなに育ててもらおうと。メインのトレーナーはいるけど、いろんな人にミットを持ってもらって、いろいろなことを吸収していくつもり。吸収したことを使う使わないは、自分で選択すればいいじゃんと。
キックの時は、こうしたら勝てる「ハメ技」があった。どんな状況になっても揺るぎない自分のスタイルがあった。でもボクシングでは「こうだ」というものがなかった。キックの時にあった「核」がボクシングで必要だなと思う。それを始めている感じ。だから次の試合がすごい楽しみ。
今年のテーマはずばり「うそ言ってんじゃねーよ」です(笑い)。本当のことを言うと嫌われるし、正直、真実と向き合うことは怖いものだから。でも自分はうそを言って好かれるより、本当のことを言って嫌われる方が生きやすいですよ。ずっと本当のことしか言っていないし、本当のことしかやってきていないつもり。真実をさらに貫いて、嫌な時は嫌だし、いい時はいいと言っていきたい。(「天心新聞」編集長・那須川天心)
◆BCトレーニング BCはバイオメカニクス・コーディネーションの略。大阪市の矢田接骨院の院長を務める矢田修氏が約30年前から考案、提唱してきたトレーニング(エクササイズ)。効率的に身体を動かすため、自然と調和し自律神経の働きを高めてインナーマッスルなど体の内部を鍛えることが目的。正しく立つことからはじめ、ブリッジ、倒立など約400種ほどのメニューがある。競技能力の向上とともに、けが予防の効果も期待できるとされる。

