若者の葛藤と輝きを生き生きと表現する若手実力派として、多くのクリエーターから引っ張りだこである。山時聡真(20)。菅野美穂(48)とダブル主演した映画「90メートル」(中川駿監督、3月27日公開)で、母親の介護と自分の未来で揺れる高校生役を演じた。人と作品に愛される才能も持ち合わせ、みずみずしい情熱でキャラクターに体温を乗せている。【梅田恵子】
★勉強することばかり
仲間思いの部活リーダー、毒親に苦しむ問題児、ワケありの傷害罪で法廷に立つ高校生など、物語の説得力を背負う役どころが続く。若手のキャスティングで真っ先に名前が挙がる1人であるが、「いやいやいや(笑い)、まだまだ勉強することばかりです本当に」。役を離れれば、底抜けに明るい実家暮らしの大学2年生。「普通に友だちとしゃべって放課後にボウリングして。そういう日常の感覚が、役を演じるという非日常につながっていたらいいなと思います」。
★役柄に対する強い思い
映画「90メートル」では、母親の介護のため、バスケットボールも大学進学もあきらめて暮らす高校3年生、藤村佑(たすく)を演じた。ふとした環境の変化で自己推薦入試に挑むことになり、チームメートとの友情、母親との絆など、揺るぎない愛に触れていく。難病、ヤングケアラーという重いテーマの一方で、若者の成長を描いた青春ストーリーでもある。
「佑はちょっとぶっきらぼうで心を閉ざしているように見えますが、人からちゃんと言葉を受け取り、人に寄り添うことができる強くて優しい子」と話す。「母親や友だちを大切に思っているけど素直に言えない、みたいな思春期の距離感は、僕も分かるんですよね。母親を思う気持ちや、バスケに打ち込んでいたことなど似ている部分が多くて、不安よりも、絶対にこの役は自分が演じたいという思いの方が強かった」。
★あらためて知る母の愛
テーマについて「めちゃくちゃ重いという感覚はなかった」という。「親子愛や友情とか、いろんな人の優しさを感じられて、お互い普段言えない思いを伝えてみたくなる作品。僕の宝物の作品ですが、皆さんにとっても宝物になるような作品だと思っています」。
プライベートでは母親と大の仲良し。「テレビゲームも一緒にします。協力して料理を作って提供するゲームとか。1人ができないとレベルが下がるんですよ。母はなかなかうまくならなくて、つい『お皿洗い』の分担をお願いしちゃったり」と楽しそう。「反抗期もなかったですね。姉が反抗期の時に全部言葉で負けているのを見ていたので、母には勝てないなと悟りました。ババアなんて言ったことないです。僕的にやばいです、それは(笑い)」。
作品を通し、あらためて母の深い愛情も知ったという。オーディションで「母親に電話する」という課題があり、息子が俳優業を選んだことへの本音を聞いた。「うれしい半面、遠くに行っちゃう気がしてさみしいと。そんなこと初めて聞いたので、母だけに感じるものがあるんだろうなと、うるっときましたね。謙虚に、初心を忘れず頑張ってほしいと言ってくれたので、その言葉を忘れずに頑張りたいです」。
★中学1年で俳優の道へ
キャリアのスタートは5歳。6歳上の双子の姉と東京・竹下通りを歩いていたところ、スカウトされた。「外で鬼ごっこばかりして骨折2回、みたいな元気な子で、当時はサッカーと空手に夢中。子役は習い事感覚でした」。18年、中学1年の時、中村倫也(39)、松坂桃李(37)、菅田将暉(33)らスター俳優を多数擁する芸能プロダクション大手、トップコートに所属し、俳優として生きていく覚悟を決めた。
「僕がおそらく人生で最初に見た『仮面ライダーW』の菅田さんがいる事務所だったので、すごいとこ入っちゃったと(笑い)。受かった時は跳び上がって、迷いが消えました。僕の情報が事務所のコンテンツに初めて載った時は、家族で大喜びしたのを覚えています。できないことをたくさん見つけられるようになったのも、できることが増えていくのも楽しいです」
コメディーでもシリアスでもよく見かけ、アクション、戦争ものなどさまざまなジャンルでキャスティングされる。NHK大河ドラマ「いだてん」(19年)で主演阿部サダヲの子ども時代を演じたのも、宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」(23年)で主人公、眞人の声優を務めたのもこの人である。クリエーターと、見る人の期待に応えながら、1歩1歩進んできた。
「役が来るたびに、できるかなー、やばいなーってなりますが、余計なこと考えずにとりあえずやってみるのがモットー」と明快だ。「監督に言われたら、そのままやってみるタイプ。僕はこう思うからやりたくない、みたいなのは好きではないんです。僕のことを客観的に見てくださっている方の期待に100%で返せる俳優になりたい。『思ってたのコレだよ』って言ってもらえたらうれしいじゃないですか」。
★年下の活躍はやばい!
実力派の若手が続々と輩出される時代。同世代の演技や活躍もしっかり意識し、刺激を受けている。
「同世代もそうですが、年下にもすごいなって思う子がたくさんいてあせりますね。やばい! 抜かされてしまう! って(笑い)」と、胸の内をあっさり明かす。「心の底から出るようなすごい演技を見た時は、そういう心をどこで、どうやって手に入れたのか気になるので、その子が普段どんな生活をしているのか見ちゃいますね」。その人の趣味もやってみるという。「それがお芝居につながるなら、自分もやってみたらいいと思うんです」。
★菅野美穂に見たプロの姿勢
ダブル主演した菅野美穂との撮影は宝物という。「リハーサルからすべて100%でやってくださって、プロとしてたくさんの姿勢を見せていただいた。現場にいる人がみんな菅野さんのお芝居を見て泣いていたんですよ。その場にいる人の感情を揺さぶることができる。一流ってああいうことなんだなって。僕もまずはその場にいる人に何か影響を与えられる俳優になりたいです」。
まだ20歳。目指す俳優像を聞いてみた。
「最近感じるのは、事務所の先輩方って、マネジャーさんとかスタッフさんとか、周りの皆さんから愛されているんですよ。それってすごいことだなって。僕も、周りの人に愛される俳優になりたいです」
変な女の人に引っかからないでくださいと、大きなお世話をひと言添えると「それ、本当によく言われます」と大笑い。「絶対大丈夫です。周りの人、見てくれる人に愛される俳優になるために頑張っているので」。
▼映画「90メートル」中川駿監督(38)
真面目で、誠実で、芝居に真摯(しんし)に向き合ってくれる良い子でした。印象的だったのが、芝居がうまくできなかった時に心から悔しそうにしていた姿。それだけの思いで作品に向き合ってくれていることが伝わり、監督としてうれしかったです。彼のそんな姿勢を見て、僕だけではなく他のスタッフたちもみんな彼のことが好きになってしまい、彼がより良いパフォーマンスを発揮できるようにそれぞれ尽力していました。明るい人柄で周囲に良い影響を与えることができる、そんなすてきな人間力を持った子です。
◆山時聡真(さんとき・そうま)
2005年(平17)6月6日生まれ、東京都出身。5歳から芸能活動を始め、16年に映画「ゆずの葉ゆれて」で俳優デビュー。23年、宮崎駿監督のアニメ映画「君たちはどう生きるか」で主人公、眞人の声を担当。ドラマ「ちはやふる-めぐり-」、映画「ラーゲリより愛を込めて」など出演作多数。25年「蔵のある街」で映画初主演。特技はバスケ、空手。176センチ、血液型B。






