吉沢亮(31)が「国宝」(李相日監督)と「ババンババンバンバンパイア」(浜崎慎治監督)で、日刊スポーツ映画大賞で初受賞となる主演男優賞を受賞した。受賞を受けた取材の中でも「国宝」で初めてタッグを組んだ李相日監督(51)を「憧れの監督」と評した吉沢に、実際にタッグを組み、味わった李組の“味わい”と今後、再びのタッグを組む可能性はあり得るか、直撃した。
「国宝」は昨年11月24日に実写日本映画興行収入(興収)記録を22年ぶりに更新し、同12月21日には181億を突破。日刊スポーツ映画大賞では作品賞、李監督の監督賞、吉沢は主演男優賞、田中泯(80)は助演男優賞、瀧内公美(36)は助演女優賞に輝いた。さらに、吉沢が演じた立花喜久雄の少年期を演じた黒川想矢(16)が、今回が最後になる石原裕次郎新人賞を最年少かつ初の満票選出で受賞(受賞対象作には「この夏の星を見る」(山元環監督)も含む)し、史上最多の6冠に輝いた。
そもそも吉沢にとって、李監督は憧れの存在だった。同監督が作家・吉田修一氏(57)の小説を初めて実写化した10年「悪人」を一観客として鑑賞し、感激。16年「怒り」はオーディションを受けたが「僕に全く興味がなさそうだった」と、同監督の目には留まらなかった。そして5、6年前、ついに李監督から、自身ありきの企画だと声をかけられたのが、同監督が吉田氏の小説を映画化した3作目の「国宝」。任にんきょうの一門に生まれるも上方歌舞伎の名門の当主に引き取られ、芸に人生をささげた主人公の立花喜久雄役を託された。
そして、まだ「国宝」の製作に完全にGOサインが出ていなかった2023年1月から、歌舞伎の稽古を始めた。喜久雄を引き取った花井半二郎の息子・大垣俊介を演じた横浜流星(29)とともに、歌舞伎俳優の中村鴈治郎(66)、日本舞踊家の谷口裕和氏(48)らから、基本のすり足から習った。24年3月から6月まで行われた撮影中も続いたけいこは1年半に及び、吉沢は「死ぬほどやった」と振り返るほど、全てをささげた。受賞を受けた取材でも「憧れの李監督。結果を出さないわけにはいかなかった」と当時に抱いた覚悟を、かみしめるように口にした。
劇中で、歌舞伎界を追われた喜久雄が、自らを慕う歌舞伎の大御所・吾妻千五郎(中村鴈治郎)の娘彰子(森七菜)と地方巡業する中で、ビルの屋上で舞うシーンがある。全てを喪失したかのような視線含め、話題を呼んでいる。そのシーンを引き合いに「李監督と出会って、俳優人生の中で突き抜けた感はあったか?」と尋ねた。吉沢は「ぜいたくな時間だった。撮影に入ってからの3カ月間は、芝居以外のことを考えさせてくれない」と、得難い体験だったと打ち明けた。
21年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」をはじめ、近年「主演として呼んでいただく機会が増えてきている」中で、「現場の空気感、スタッフさんの動き、周りの共演者の肩との距離感がいろいろ増えている」という。その中「国宝」の撮影現場で、李監督は「そんなことを考えず、芝居だけ考えろ、お前は!」という空気感を出していたという。
だからこそ「求められること、要求されるもののレベルの高さみたいものに、苦しむ瞬間もたくさんあった」という。「こんなに現場で苦しめるのって、いつぶりだろうというくらい苦しんでいた、なかなかない経験をさせていただいた」と感謝した。
そこまで語った段階で、吉沢に「また、李さんとやりたいですか?」と尋ねると一瞬、考えた末に「簡単にやりたいとは言えないですけど…」と答えた。そのため「『国宝』が日本映画史に残る記録を作っている最中の今に至っても、そういう質問と、それに対する答えが報じられた形跡がない。だから、聞かないわけにはいかなくて」と、質問の意図を説明した。吉沢は「あはははっ…」と笑いつつ「もちろん、やりたいですよ。大好きな監督だし、今回、本当にお世話になって。もし、お話をいただけるようなことがあれば、絶対にやるとは思いますけど」と答えた。
そこで、さらに「また、この思い(1年半にわたる歌舞伎の稽古はじめ厳しい日々)をするんですよ」と、ちょっと意地悪な質問を投げかけた。吉沢は「生半可な覚悟じゃ、やれないことは今回、知ったので。役と向き合える時間が相当、ある期間でないと、やれないかも知れない」と口にした。吉沢自身、24年の主演映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」(呉美保監督)では、耳の聞こえない両親のもとで育ったコーダの息子を演じるために手話、現在放送中のNHK連続テレビ小説「ばけばけ」では英語教師役を演じるために英語を学んだ。さらに今年7月には、柿澤勇人(38)とのダブルキャストで主演する米ブロードウェイでの大ヒット作「ディア・エヴァン・ハンセン」でミュージカルに挑む。役作りのために、挑み、積み重ねるものが多い作品が続いている現状を踏まえ、現実的な線を考慮した上で、李監督との再タッグの可能性について言及した。
李監督の妥協なき姿勢は、海外でも知られている。「国宝」が昨年5月に出品された世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)に併設されたフランス監督協会主催の独立部門・監督週間のジュリアン・レジ総代表が同12月に来日。都内で開催された「カンヌ監督週間 in Tokyo 2025」のプログラムとして、同16日に「国宝」が上映された。吉沢は、李監督と横浜と舞台あいさつに登壇。レジ氏から「李監督はこだわりの強さ、思い通りになるまでやらせることで知られる。こんなことが本当に大変だった、ということを正直に教えて欲しい」と質問された。
吉沢は「何回もやらされるのも、そうですけど、なぜ何回やらされるかが分からない。(李監督は)『もう1回』しか言わない。何がダメなのかを教えてくれないのが、厳しさであり愛情と受け止めていました。自分が分かるまでやらせる…なかなか絞られたなと」と答えた。
一方、22年の「流浪の月」に続き2度目の李組の参加となった横浜は「1回目は、暗闇の中で必死に自分の中で探した。大変だけど、我々の中にあるものを信じてくれる監督も多くない。幸せ」と李監督に感謝。「2作目は、分からないところはあるんですけど、1作目でやっていたからこそ分かるものもあった。正解はないと思うんですけど、自分の中でもがくのを、時間が許す限りやってくださる方は、そう多くない」と、2作目だからこそ、より理解できた面が多かったと振り返った。
吉沢も、横浜のように李監督と2度目のタッグを組めば「国宝」での経験を生かし、より前進した関係性で新たなものを生み出す可能性は高いだろう。そうした作品、吉沢の芝居を見る日を、記者は楽しみに待ちたい。【村上幸将】
◆吉沢亮(よしざわ・りょう)1994年(平6)2月1日、東京都生まれ。09年「アミューズ全国オーディション THE PUSH!マン」をきっかけにデビュー。11年「仮面ライダーフォーゼ」の仮面ライダーメテオ役で注目を浴びる。19年NHK連続テレビ小説「なつぞら」でヒロインの幼なじみ、21年NHK大河ドラマ「青天を衝け」では主演の渋沢栄一を演じた。20年日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞。171センチ。血液型B。



