【プラハ=藤塚大輔】今大会限りで現役を引退する坂本花織(25=シスメックス)が、今季世界最高の79・31点で首位発進した。銀メダルだった2月のミラノ・コルティナ五輪後に出場を決断。22年から3連覇した舞台で有終の美を飾るべく、27日(日本時間28日)のフリーへ臨む。
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現役最後のSP。サヨナラを意味する曲「Time to Say Goodbye」の荘厳な音色が流れ始めた。最上階まで埋まった観客が別れ惜しそうに見守る中、坂本の心に特別な感情は湧かなかった。
「開始10秒くらいで『今日もノーミスで止まらないぞ』と。最後というよりも、いつもの練習の感じでいけた」
感傷的な思いはみじんもない。練習の成果を出し切ることだけを目指した。
それこそが、出場を決めた理由だった。ミラノ五輪のフリー。ジャンプでミスがあり、1・89点差で金メダルに届かなかった。昨年6月に今季限りの現役引退を表明して以降は「五輪が最後」と決めていたが、心残りがあった。
「やり切れなかった。もうちょっとできたはず。五輪の忘れ物を取り返したい」
五輪女王のリュウ(米国)らが欠場する中、帰国する頃には出場を決心。今大会を迎えるまでには、曲かけでミスをしたら始めからやり直しとなる「ミス止め」を繰り返した。いつもの厳しい練習で追い込んだ。
この日のSP。開始10秒で「ミス止め」を思い出し、演技に没入した。「今できることを精いっぱいやろう」。全3本のジャンプを決め、スピード感のある滑りでミスなく通した。
「練習通りに試合でちゃんとできたので満足」
今季世界最高得点よりも、やり切れたことに喜びがあふれた。
中学1年生だった13年秋。初めてのジュニアGPシリーズが、チェコの大会だった。あれから13年。くしくも同地が現役最後の舞台となり、会場中で坂本のタオルやバナーが揺れた。「ジュニアGPの時はポツポツくらいしかお客さんがいなかった。でも今は世界選手権でこんなにたくさんの人に囲まれて演技ができる」。国を越えて愛されるまでに成長したスケーターは、最後まで変わらない。
「4回目の優勝を目指すより、悔いなく競技から離れられるように挑みたい」
最後だからではなく、いつも通り。現役ラスト演技となるフリーも、やり切るだけだ。


