追い詰められれば、誰にでも魔が差す瞬間があるのだろうが、主人公の行動は常軌を逸している。
25年勤めた製紙会社をリストラされ、どん底に沈むマンスの頭に、再就職への秘策が浮かぶ。「パルプマン賞」に輝く特殊技能を持つ彼は、好調な同業他社にふさわしいポストを見つけるが、合理化が進む業界には同様に浪人中の有力ライバルたちがいた。彼らをピックアップしたマンスの目が、ベトナム従軍した父の遺品の銃に向いて…。
55歳になったイ・ビョンホンがうまい。無職の悲哀、心にポッカリ空いた穴が遠くを見るような目から伝わってくる。妻役に「愛の不時着」のソン・イェジン。今作も艶っぽい。彼女のためなら、と夫の行動の動機として説得力がある。
「オールド・ボーイ」のパク・チャヌク監督がパルプ産業を入念にリサーチし「狭い業界」の人間模様を実感させる。原料となる植物へのマンスの溺愛。現場となる温室など、すべてを「木から紙」の中に収める舞台設定が効いている。
しっかりとした背景から、主人公の職人気質を追いやる時代の波が垣間見え、リストラの非情、自然との共生といった今を象徴するテーマが浮かび上がる。【相原斎】
(このコラムの更新は毎週日曜日です)




