通信社からコメントを求められて事案の内容を聞きながら、いら立ちを通り越して怒りがわいてきた。
埼玉県立小児医療センターで抗がん剤を注入された10代の男性患者が死亡。2人が意識不明になっていると、病院長らが記者会見を開いて明らかにした。
3人は昨年初めと10月に、背骨周辺から抗がん剤を注入する髄腔(ずいくう)内注射のあと神経症状を発症。10月に注射された男性が死亡。2人は意識が戻らない状態という。
センターが昨年11月、患者の髄液を分析したところ、ごく少量でも神経症状を起こすため髄腔内注射では絶対に使わない「ビンクリスチン」が検出された。この薬は劇薬のため薬剤部の一室で厳重に保管され、薬剤師が医師の指示書に基づいて調剤するが、3人の投与日にこの薬が使用された形跡はなかったという。
通信社の記者からそこまで聞いて、私は思わず「これは事件だろ」と話を遮ってしまった。ミスだとするには同じミスを3度も犯すとは考えにくい。薬剤が減っていないということは、あとで補完したか、薬品をほかで調達した故意の犯罪。殺人罪か傷害致死傷罪になる。だけど記者の説明の続きを聞いて私は心底驚いた。
センターが事案を県警に届け出たのは、この日になってから。それまでは昨年11月に立ち上げた「調査対策委員会」で関係者の聞き取りなどをしてきたという。
だけど、重大な過失どころか殺人にもなりかねない事件を「調査」したり「対策」を立てて何になるんだ。
昨今、セクハラ、パワハラに暴力、暴言。役所や企業、テレビ局が次々に立ち上げる第三者委員会や調査委員会。だけど性的強制は不同意性交や強制わいせつ罪だし、首長や上司の暴力、暴言は暴行、脅迫の犯罪だ。それを調査や対策ですまされたのでは被害者はたまったものではない。小ざかしく逃げるんじゃない。司法に任すべきだ。あらためて言うまでもない。私たちは法治国家の国民なのだ。
◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。TBS系「ひるおび」東海テレビ「ニュースONE」など出演中。


